近鉄下市口駅から国道309号線を吉野の山塊に分け入ること、車で約一時間。浅見光彦シリーズの映画「天河伝説殺人事件」の舞台ともなった天川村の中心部から、今後はVの字に進路を変え、細い山道を大峰山を源とする山上川に沿って吉野方面に向かって走ると、突然開けた温泉街が表れます。標高約820m余りの高地に位置するこの洞川の歴史は古く、役小角に従った後鬼の末裔によって開かれたという伝承も残る、修験道の根本道場として知られる大峰山・山上ヶ岳への登山基地として栄えた宿場でした。
ただし本来大峰山の山上参りというのは、熊野から入るのを「順の入り」、吉野山から入るのを「逆の入り」といい、洞川からは登る事はありませんでした。この洞川方面から登るようになるのは、洞川までのバスが通じるようになった、わりと最近の事です。また大峰山寺の本堂は、毎年5月初旬から9月下旬までの期間のみ門戸を開いていたので、洞川でもその期間だけの営業で、休業中は山仕事を生業としていましたが、20年ほど前から温泉が掘り出された事により次第に通年営業に切り替わっていきました。
講中宿らしく、各旅館には今も講中札が掲げられています。一階部分の広い開放、長い上がり框などは、大勢の講中者の受け入れに対応したもので、現在は学校の合宿場としても多く利用されています。
伝統的な木造建築の旅館や民宿が20数軒建ち並び、そのほかに土産物店や陀羅尼助丸を製造販売する店13軒や各種の商店が軒を連ねています。また日帰り温泉施設「村営洞川温泉センター 」のオープンし、人里離れた場所にありながらも、活気のある温泉町の印象でした。
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