兵庫県日本海沿岸の町村のなかで、多くの文豪に愛された城崎温泉がある城崎町とならび全国に知られる香住町。架け替えの決まった山陰本線余部鉄橋に、山陰有数の銘酒「香住鶴」、応挙寺として知られる大乗寺などがこの山陰の小さな町を全国的に知らしめているのです。古くから香住港や柴山港という山陰有有数の港町があったこの地域は、江戸時代に本見塚の茅野塚で銀鉱が発見されてからは、銀の積出港として重要視され、香住は銀山の町として大いに賑わったといいます。かつて豊岡街道の宿場町として、現在も軽自動車が辛うじて通れる幅の旧街道筋には旅籠の面影を残す家並みがひっそりと残されているものの、伝統的な古い町並みとは言い難く、その他香住の中心部にも往時を偲ばせる町並みは残されていませんでした。
続いて山陰の小さな酒蔵ながらも全国にその名が知れる香住町の銘酒「香住鶴」の酒蔵を訪れました。町の中心部から車で5分ほどの郊外の森地区にあります。ここは国の重要文化財に指定されている円山応挙とその一門の障壁画を初めとする作品を多数保存している通称応挙寺、正式には高野山真言宗大乗寺の門前でもあります。
内陸部の村岡へ通じる街道沿いには小川が流れ、香住鶴を初めとする漆喰に虫籠窓の重厚な家並みが残されていました。香住鶴は平成17年、郊外に店舗を併設した新工場「福壽蔵」へ移転し、現在この場所で酒造りは行っていないそうですが、それを知らずに訪れる私のような観光客がいるためか、この旧店舗でも酒の販売が行われていました。矢田川を遡り村岡町との境近くに建つ「福壽蔵」の近代的な工場はこの香住鶴のアンテナショップ的な役割も担った施設で、この山陰の小さな酒蔵の活力を感じると共に、是非とも応挙寺前の古い酒蔵も引き続き残してほしいと思いました。
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