一路一会鉄道の旅・鉄路一会>土日キップで廻る甲信越と羽前
   土日キップで廻る   
  甲信越と羽前の旅  
 

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 新宿駅7:00発の中央本線特急「スーパーあずさ1号」松本行きに乗るために、5:30に起床。冬のこの時間はまだ夜中でかつ寒い。電車をいくつか乗り継ぎ6:40に新宿駅に着く。6:35に新宿駅の6番線ホームにスーパーあずさは入線するが、席取りダッシュを避けるため、あらかじめ指定席を取っていたので、ゆっくりと車両を撮影してから、ホットコーヒーを購入して列車に乗り込んだ。

 スーパーあずさ1号は定刻通り7:00に新宿駅を出発した。松本行き中央本線の特急は「スーパーあずさ」の他に普通の「あずさ」と甲府止まりの「かいじ」がある。スーパーを冠しているのはE351系で、後者はE257系である。E351系特急車両は制御付き自然振り子式を採用し、最高時速130キロで走るが、高価な為に5編成で終了してしまった。現在中央本線の特急は大半がJR東日本のベストセラー特急車両のE257系で占められている。

 普段見慣れている中央線の風景を特急列車のシートと車窓から眺めるとまるで新鮮に見えるのが不思議だ。しかも乗り心地も高級車なみに静かで振動もなく滑るように走る。八王子を過ぎると、甲州街道の醍醐味である山間部へと入っていく。振り子式列車特有に車体を傾けながらカーブを曲がっていく姿は大蛇のようで、見ていて飽きないどころか感心する。甲州街道の国道20号線と中央本線は狭い谷間を絡み合いながら信州を目指すが、やがて国道は遙か眼下に遠ざかっていく。一方で中央自動車道はさらにはるか上を走っている。

 中央本線にはいくつものスイッチバック駅があったが、現在のパワフルな列車は速度を落とすことなく高度を上げていく。中央本線の駅の半分くらいは甲州街道の宿場町名を付けているので、今いるおおよその位置は追跡する事ができる。大月を過ぎると標高400mに達している。甲州街道と中央自動車道にもある長大トンネルの笹子トンネルに入る直前には標高600mと完全な山岳線である。
  甲斐国の郡内地方と国中地方をつなぐ笹子トンネルを抜けると、列車は甲府盆地へむけて急降下していく。
さすがに直接甲府盆地へは直行できないので、ぐるりと盆地の北辺を塩山経由で周回しながら、今度は青梅街道と併走して甲府駅へと入っていく。駅前には甲府城の石垣がそびえる。甲府は何度も訪れているが、甲府城は初めて見た。天守閣は無いが、門や稲荷櫓が復元されている。立派なものだ。

 中央本線はこの甲府で一区切りとされるらしく、ここから信州へむけて再び山岳線が始まる。竜王を過ぎると、スーパーあずさはどんどん山を登っていく。甲州街道はよく車で行き来する道だ。ちょうどこのあたりは七里岩
(しちりいわ)の尾根を登ってると思う。七里岩は甲州街道から見ると見事な侵食崖であり、地形を上から見ると舌状の台地で、それが「韮」の葉に似ている事から、先端部の地域を「韮崎」と呼ぶようになったらしい。
 長坂を過ぎて八ヶ岳山麓を周回しながら高度を上げていく。そして列車は8:45に小海線との接続駅である小淵沢駅に着いた。とても特急列車が停車する駅には見えないが、登山客やゴルファーが主な乗降客である。

 事前に綿密に組み上げた計画では、9:38発の中込行き小海快速に乗り、その後は長野新幹線に乗り換えて昼前には長野駅へ着く。そこから信越本線は189系特急車両を使用した「普通」列車「妙高5号」で、ゆったりとした車窓を楽しむ段取りであった。のだが、しかし、時刻表デビューして間もない私は、大きなミスを犯してしまった。 「小海快速」は時期限定の臨時列車だったのだ。でリアルな今日この時の接続列車は約2時間先の各駅停車。なんと言うことか、旅程は全体的に大きく乱れ、長野に着く頃には午後を迎える。さらにその後の接続も玉突き状に乱れ、新潟着は相当遅い時間になってしまう。
 大あわてで時刻表との格闘をはじめた。もはや今回は小海線乗車をあきらめ、次の松本行き「あずさ」に乗り、松本で接続するJR東海の特急「しなの」に乗り込むと、ギリギリ正午には長野へ着ける。妙高5号にも間に合う。

 しかし、それでいいのかと自問自答が始まった。小海線は今回の旅のメインディッシュの一つ。雪の季節の今でこそ乗る価値があり、今日を逃すとまた来年までおあづけになる可能性がある。なにが大事が葛藤している間に、目の前を松本行き「あずさ」E257系特急が停車・発車していく。ああ。小海線を決断した。さきほど小淵沢に停車した「あずさ」やそれに続く鈍行列車から登山客らしき装備の人々が次々とホームに降りてくる。あきらかに、みな小海線の乗客だ。まさか、こんな所で席取り合戦になろうとは。

  駅前は何もない。雪もほとんど無い。駅の売店で地酒・谷櫻酒造の「谷桜ワンカップ」と数点のつまみを買う。登山客の一部が小海線ホームに移動を始めたので、あわてて後を追う。まだ30分以上時間はある。良く晴れて、強い日差しだが空気には張りがある。小海線の車両は2両編成のキハ100系気動車である。ちなみに本数限定で、先日公開されたハイブリッド列車であるキハE200系列車があるが、今回は乗れないどころか、見えそうにもない。



 

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 小海線はJRの中で最も標高の高いところを走る高原列車として知られている。10:35小淵沢を発車したキハ110系気動車は、ディーゼルエンジンを唸らせ、車輪は悲鳴を上げながら「大曲」と呼ばれる大カーブを廻って高度を上げていく。武田信玄の古戦場のひとつとして知られる「信玄原」を抜けて、軽井沢とならぶ別荘地として人気の高い清里を過ぎ、標高1375mのJR最高地点に達したあとは、千曲川に沿ってゆるやかに佐久盆地へと下っていく。
雪はそれほど多くは無いが、ゆるせる程度に大地を覆っている。雪に反射する太陽光がまぶしい。

  小海線と併走する国道141号線は車で何度も走ったが、列車の雰囲気は車のそれとは大分違い、あらゆるものが当然ながら新鮮である。小海線の車内はかなり混み合い、朝っぱらから一人酒を飲める状況では無いが、腹は減っている。まあ、朝っぱらから飲む必要もないのだが、このために朝食を我慢していたのだ。
 
 やがて乗客の多くは、野辺山から松原湖の間で降りていった。予想した通り、その先の車内はまるでガラガラだった。列車には同じ「土日キップ」で旅する少年が乗っていた。おそらく中学生くらいであろうか。あの年頃で、単身列車で旅にでるなど、当時の私は考えた事もなかった。しかもどうやらアテの無い旅のようである。
 小海線は八千穂のあたりで黒澤酒造の酒蔵裏を走り抜けると、佐久市の中心にして旧中仙道の宿場町である「岩村田」を過ぎ、やがて新しい高架線へと登っていく。おおよそ、今までとはまるで車窓が異なる。

 長野新幹線の接続駅として新設された「佐久平駅」は、新幹線駅の開業に際して、地上にあった小海線の線路を高架に持ち上げたため、新幹線ホームの上に在来線のホームがあるという、全国でも珍しい駅構造となっている。 真新しい近代的な駅舎も含めあらゆるものがローカル線、かつ日本有数の山岳鉄道とはかけ離れている。単線の高架はコンビナートを結ぶ臨海貨物線を思わせるが、佐久平の雄大な景色が唯一の違いか。
 佐久平駅の周囲は、閑散としている。ポツポツと見えるマンションやちいさなビルに駅前ロータリーなどは真新しいが、おそらくこれ以上に発展はないだろう。駅前のシャトレーゼでアイスを買い、空きっ腹と酔いを冷ましながら新幹線ホームへ移動した。ホームには小海線に同乗していた少年がいた。

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