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   青春18キップで廻る        
  北近畿・餘部鉄橋の旅  

 
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 この列車は餘部から2駅つ先の浜坂駅止まりで、再び(146D)となって折り返してくる。当初の計画では浜坂まで乗って行ってみたい気もあったが、やはり今回はここ餘部駅で降りる事にした。ギリギリまで窓から写真を撮っていたが、ワンマン運転なので、最前部のドアしか開かない。大あわてで荷物を抱えて列車を駆け降りた。
時間はまだ 7:45。一瞬感覚が鈍るが、今日中に鈍行を乗り継いで東京に戻るには、ギリギリの時間なのだ。 

 今乗ってきた列車が浜坂で折り返してくるまで40分ほどある。余部は車では何度も来ており、あえて「下山」する必要は無かったので、この小さな駅でのんびり時間を過ごす事にした。ただじっと海と鉄橋を眺めるて。たまには、こんなスローな旅もいいものだ。さて、餘部駅は新線建設によって幾つか変わっていた。まず、駅へのアクセス路とは思えない、登山ルートが廃止され、線路の反対側に「H綱」で組み上げられた仮設ルートが設けられていた。かなり立派な造りであり、線を横切る為に、新たに遮断機と踏切が設置された。
 新線は内陸側に並行して建設されるため、餘部鉄橋の撮影ポイントであった展望台もまた閉鎖されていた。今回訪れた時はまだ、基礎部分の整備が進行中であったものの。新しい橋脚の立ち上がりまでには至っていなかった事が大きな救いであった。

 かつて餘部駅が地元の誓願によって設置される以前は、ダイヤの合間を見計らって、この鉄橋を徒歩で渡り、さらにいくつものトンネルを抜けて隣りの鎧駅までいったというから驚きだ。なお、ちなみに餘部鉄橋は正式には
「余部橋りょう」という。さらに地名で「余部」が用いられているが、駅名は「餘部」である。これは同じ兵庫県内にある姫新線の余部駅と区別する為に、違う漢字が用いられたようなのだ。

 餘部鉄橋は、明治42年(1909)12月に着工され、明治45年(1912)3月開通しました。橋の高さは41.45mで、全長は310.59m。橋桁は11基の橋脚で支えられたトレッスル橋と呼ばれるもの。トレッスルとは「架台」または「うま」のことで、短スパンで多数の橋脚で橋桁を支える構造のことらしい。橋脚の鋼材は、アメリカンブリッジ社のペンコイド工場で製造され、遙か太平洋を渡り、九州の門司港経由で余部沖に運ばれたという壮大なプロジェクトだったらしく、目の前に広がるこの余部港からそれら鋼材が陸揚げされたのだ。ちなみに桁は国産で、神戸の石川島造船所(現・IHI)で製作され、陸路で運びこまれたとか。



 この余部鉄橋を世に知らしめたのが、山陰本線の脱線転落事故でした。昭和61年(1986)12月28日、香住駅より浜坂駅へ回送中のお座敷列車「みやび」が日本海からの突風にあおられ、橋梁の中央部付近より機関車と客車の台車の一部を残して7両が下の集落へと転落したのです。その転落した客車は鉄橋の真下にあった水産加工工場を直撃。従業員だった主婦5名と乗務中の車掌1名の計6名が死亡、同工場の従業員5名と客車内にいた日本食堂の車内販売従業員1名が重傷を追った悲惨な事故でした。現在、橋脚の下にはその事故の慰霊碑が立っています。

 現在も、天候が悪い日には度々ダイヤは遅れ、運行に支障をきたしている為、自治体が建設費の8割を負担する事で、横風にも強い新しい橋に掛け替える事になったのです。新橋はエクストラドーズド橋と呼ばれるコンクリート製で、4基の橋脚で橋桁を支え、斜張橋のような高架橋になるとか。

 今回はやたらと動き回らず、ただひたすら橋梁ごしに日本海を眺めていた。しかしいよいよ、餘部と別れる時間が来た。ホームは来るとき一緒に乗ってきた乗客と、おそらく昨日から下の民宿に泊まったであろう観光客で溢れていた。やがて汽笛と共に森を抜けて入線してくるキハ47系。そしてそれを撮るために望遠レンズを構える。
 シャッターを切っている間に、あっという間に列車は目の前を通り過ぎて行く。ちなみにこの2両編成のキハ47系は、大幅に改修された1両の窓が今風の固定式になっており、なぜか残る1両が従来の上下分割式の可動窓なのである。来るときは後ろ側の車両だったが、今回は先頭車両を確保しんくてはならないのだ。車内には、そこそこ人が乗っており、ボックスシートは全て埋まっていた。かろうじて車端部のロングシートを押さえ、急いで窓をあけ、カメラを構え、列車の出発を待った。
  8:27列車はゆっくりと餘部駅を出発し、鉄橋を加速しながら渡っていく。シャッターを切っている内にトンネルに入ってしまった。わずか30分ほどの滞在だったが、非常に別れ惜しく、かつ満足のいった旅であった。

 

 
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