この列車(161D)に乗った瞬間から、今回の旅の醍醐味が始まるのである。列車は6:33豊岡駅を出発。円山川に沿って日本海を目指す。車窓から見下ろす、併走する道もまた、何度も走った道であり、いよいよ次の城崎温泉も合わせ、非常に感慨深いものがある 。
城崎温泉は1500年の歴史を持つ兵庫県随一の名湯地で、川沿いに植えられた柳と石畳の温泉街が印象的で、多くの文人墨客が愛した温泉地である。そしてこの私もまた、幾度も訪れ、昨年には念願の宿泊と外湯巡りを果たしたのだ。その記憶がよみがえってきた。
城崎温泉を過ぎると、いよいよ日本海に面したリアス式の海岸線を縫うように走る。小さな入江には小さな集落が見え隠れする。山陰本線は山側をトンネル越しに走る為、意外に海を見ることはあまり無かった。
やがて、この地域の中心都市である香住を過ぎると、いよいよクライマックスの餘部へ足を踏み入れるのだ。餘部鉄橋手前の鎧駅で列車交換。目の前に見えるいトンネルの先が、かの念願の「餘部鉄橋」だ。
ちなみに、餘部駅が開設される以前は、この鎧駅が餘部住民の玄関駅であったのだ。列車交換を追え、ついに列車は走りだした。トンネルを抜けるとすぐに鉄橋に放り出される事は十二分に承知していた。ゆえに、カメラのシャッターに添えられた指が震える。
一瞬、トンネル間に設けられたスノーシェードから見える日本海が遮られた後、眼下に餘部の集落と入江が飛び込んで来た。かつて何度も下から見上げた鉄橋を、いま現実に走っているのだ。しかし、不思議なくらいにリアリティーが無い。そえは一瞬の夢の中の出来事のようであった。
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