一路一会鉄道の旅・鉄路一会>青春18キップで廻る信州・北陸・飛騨の旅
   青春18キップで廻る        
  信州・北陸・飛騨の旅     
 
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 残り2枚の18キップでどこに行くか。候補は紀伊半島一周と北陸ローカル線&高山本線による本州縦断だ。
結局、紀伊半島一周は時間的に無理があり、18キップ以外の支出が多く掛かるので今回は北陸エリアを中心とする事にした。1日で全線を通して乗ることがかなり難易度な高山本線に縛られて、下から廻るか、上から廻るかで悩んだあげく、東海へのアクセスの定番「ムーランとながら」など、とても取れるわけがなく、中央本線で本州の背骨を北上し、糸魚川経由で日本海に出ることとした。ちなみにこの時期、新宿ー白馬を結ぶ臨時夜行列車「ムーライト信州」すらも取ることはできなかった。

 大まかな計画を立て、週末が訪れるのを楽しみに待つなかで、衝撃的な事件が起きた。出発の前日である木曜日の夕方、首都圏を襲ったゲリラ豪雨によって、中央本線の高尾付近が土砂崩れで寸断、併走する京王電鉄の回送車両が土砂で脱線損傷したのだ。さすがに首都圏の大動脈でもあるので、翌日には復旧していた。しかし安心もつかの間、出発する金曜の夜もまた、雨が降りしきった。

 高尾始発の中央線に乗るには、5:18新宿発の中央線に乗るしかない。また3:30起きである。土曜日の早朝の雨の降りしきる中を、登山に近い恰好で駅まで歩く。私鉄とJR山手線を乗り継ぎ新宿駅へ。毎度のことなので、いまさらながら驚きはしないが、早朝の新宿駅は5時台でもラッシュだ。ホームに滑り込んできた東京駅発高尾行きの列車は100%を越える満員だ。これから終点まで乗っていくのに、いきなりあちゃ〜と思ったが、東京最大の乗降客を誇る新宿駅なので、乗客はどっと降りて、車内は空席も出来た。よって座ることができた。しかし車内は再び混雑する。土曜日の早朝なので、大半は出社組では無く帰宅組で、郊外に移るほど乗客は減っていった。ビジネスマンと旅行客や登山客の比率が立川を過ぎたあたりから逆転してくる。あきらかに18キップでの旅人らしき「鉄ちゃん」の姿もポツポツと散見される。

 高尾駅では、向かいのホームに6:14発中央本線(427M)115系3両編成が、ナイスなというよりもきわどい接続で待っていた。写真を撮っている場合ではない、あわてて席取りダッシュである。だが、本来は間髪いれず発車するはずなものの、どうもおかしい。

 列車の発車ベルが鳴らない理由は明白で、またダイヤが乱れている。物静かなホームには、列車のアイドリング音と競うように、雨音が強まる。不安が頭をよぎる。

 発車ベルがホームに鳴り響き、中央本線はゆっくりと高尾駅を出発した。駅構内の線路はまだ泥で埋まり、枕木やスラブ材の姿は見えない。茶色の中で青光りする線路の上を列車は滑るように駆けていく。日が昇ってくると、山霧に覆われた幻想的な山塊が姿を現してくる。大月駅の手前で、停止信号のため停車。なかなか動き出さない。車両トラブルでホームがつかえているらしい。朝一番のハプニングの連続。これで、また15分ほどダイヤが遅れている。

 甲府盆地に入ると、再び車内放送が流れた。竜王から先が大雨の為徐行運転を行っているらしい。松本に着く時間が大きく遅れ、その後の乗り継ぎを考えると、旅程の大幅な変更を検討しなくてはならない。幸いにも徐行指令は甲府に着く前に解除された。この後の回復運転に期待するしかないが、雨や霧は依然として残っているわけだから、あまり大きな期待はできなさそうだ。この先松本での接続が後手後手に回ると、下手をすれば、1日目はおろか2日間の全旅程が狂いかねない。



 岡谷駅では、なんと松本行き「快速みすず」(427M)が接続の為に本来の発車時刻を過ぎても待っていた。松本にはこの「快速みすずが」先に着くらしい。今乗っている列車も、高尾ー松本直通の中央本線では数少ない列車であり、かつ折角座れているものの、時間の遅れを少しでも取り戻したかった為に乗換を決意した。
 満席の車内でかろうじて、運転席からの視界が良いこのJR東海313系の最前列を陣取る事ができたが、教育のなっていない鉄道好きの学生に奪われてします。

 「快速みすず」はダイヤの遅れを取り戻す(ような)勢いで松本をめざす。313系はあいかわらず、静かで快適な乗り心地だ。今日の旅の最初の予定は、松本から「篠ノ井線」に乗り換え、「日本3大車窓」と称されるスイッチバック駅の「姨捨駅」に降りる事だ。そして善光寺平をたっぷり堪能して、また折り返し戻ってきてから、大糸線で北陸をめざすプラン。大糸線の接続もたっぷり時間があるので、城下町松本で食事でも摂ろうという、たまにはこんなスローな旅もいいものだ。と、その後の事はあまり考えない。せいぜい日没までに富山入りが出来ればいいかな、くらいの落ち着きもある。というよりも、あえて考えないようにした。

 しかし松本駅に到着すると、駅放送の案内が響いていた。それは、大糸線「臨時快速・あずみ野号」が信濃大町まであと、数分で出発するという。これも本来の出発時間を過ぎているが、接続の為に待っているらしい。もっとも待っていたのは、今乗ってきた「快速みすず」では無く、後から来る特急「スーパーあずさ」であった。
 
 これによって、再び今までの”自分”が目覚めてしまった。ただでさえ接続の悪い大糸線で、かつ魅力の薄い都市近郊の平野部区間をショートカットできるとは、予定を変更してでもこの列車に乗り込むしかないと瞬時に判断した。JR東日本管内の篠ノ井線はいつでも乗れる。ここで、コマを一気に進めれば、当初あきらめていた北陸のローカル線をいくつか制覇する事ができる。ああ、結局我にはスローな旅は永遠に不可能なのか。

 
 
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 大糸線の車両はJR東日本E127系と呼ばれるステンレス製の通勤型車両だ。しかし今乗る「臨時快速・あずみ野号」は国鉄114系2両編成だった。ボックス席は埋まっていたので、最前部の3人掛けロングシートを確保して発車までのあいだ写真を撮る。
 信濃大町行き「臨時快速・あずみ野号」(8351M)は 9:47に松本駅を出発した。市街地をしばらく篠ノ井線と併走するが、北松本駅の先で別れ、国道147号線・千国街道(糸魚川街道)に併走しながら平野を駆け抜ける。
  一日市場駅で昨夜新宿を出発、今朝方白馬駅で乗客を降ろしてきた「ムーンライト信州」の回送列車と交換。
その後、豊科、穂高、信濃松川各駅で列車交換を行い、10:20信濃大町駅に到着した。信濃大町は立山連峰の長野側の玄関口として知られているが、古くから「塩の道」の中継点として栄えた町で、「塩の道博物館」の他数軒の酒蔵もある。当初の予定ではここで「ぶらり途中下車」をする予定であったが、乗換の接続時間が「絶妙」の7分しか無いため、次回の旅にとっておく事にした。大糸線は糸魚川まで抜けるのが本当に大変なのだ。

 信濃大町で、大町線の本来の車両である、ステンレス製のE127系2両編成(325M)に乗り換える。この車両は東京で使用されている(いた?)209系通勤型電車がベースで、VVVFインバータを搭載した3扉オールロングシートの車両。ローカル色は無いうえに、顔つきは一昔前の205系っぽい個性のかけらもないデザインだから始末が悪い。車内は大半がロングシートだが、北アルプス(飛騨山脈)側がボックス席になっており、平日の通勤通学客向けの合理性と休日の観光客への配慮がなされていた。窓は大きく、ロングシートに座っても北アルプスを車窓越しに見ることができる点には感心した。車内は明るく開放的。東北で旅行者に悪名高い701系に比べると、数段、いや遙かに上をいく車両である。
 E127系は今風のハイテク車両だが、実はワンマン運転だ。料金の授受がある為に運転室は隔離されておらず、最前部からの視界が良い点は、最近のローカル線車両と同じだ。とうぜんトイレも完備している。車椅子対応の大きな水洗トイレだ。

 
Page1■ 旅の始めは大糸線
page2■ 中央本線・大糸線で本州横断1
Page3■ 北陸本線で富山入り・氷見線に乗る
page4■ 一日の終わりは城端線
page5■ 高山本線で本州横断2
page6■ 篠ノ井線で姨捨駅をめざす
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