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   青春18キップで廻る    
  信州・北陸・飛騨の旅   
 
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 黒部駅の始発、5:58の普通列車(520M)に乗ると、どうやっても猪谷の接続が無く、本日中に高山本線経由で東京へ帰るのは不可能である。思案していると5:15発の急行「能登」(601M)が目に入った。この列車に乗ると、飛騨高山までは順調な接続でたどり着け、かろうじて高山本線の全線乗車が現実味を帯びてきた。
 5時に旅館を出るため4:30に起きる。精算は昨日済ましておいた。朝日はまだ水平線の下だが、うっすらと空が明るみを帯びはじめていた。

 が、黒部駅で重大な事に気がつく。急行「能登」。18キップで乗れると踏んでいたが、快速と急行をごっちゃにしており、よくよく見ると「急行」は乗ることができないのだ。しかしこれに乗る以外の選択肢は残されていないので、富山までの乗車券と急行券を別途購入する事となる。

 やってきた急行「能登」(601M)は国鉄色のボンネット型489系だった。上野の金沢を結ぶ夜行列車だ。まだこのような列車が運行されていたのかと感心すると共に、ボンネット型先頭車両も初めて実物を見た。おそらく北陸新幹線が開通するまでの繋ぎであろう。
 車内は睡眠モードで照明が落としてあり薄暗い。乗車率は四割ほどだが、大半が、いや全員がシートを対面にして仮眠する無秩序状態。おそらく全席指定だと思うが、早朝に乗車してくる客などいないと思っているのだろう。こんな無秩序な車内で、検札などやっていない。キップを買わなくてもよかったが、まあ、キセルはやめよう。
 ちなみに、こんな早朝だというのに、黒部駅のホームには私の他に老夫婦と若い女性と若い男性がいた。

  富山駅では島型ホームの金沢側先端が頭端式になっていて、降りたホームの先に高山本線一両がもうまさに発車寸前だった。初めてみるボンネット型489系を撮影して、猛ダッシュ。こんな早朝だというのに高山本線はかなりの混み合いだ。地元客と旅行客は半々くらいか。これに乗らないと猪谷から先の接続に難儀するのは周知の事実のようだ。

 キハ120系はJR西日本が殆どのローカル線のワンマン化を図って投入した単両編成の車両。新潟トランシスの第3セクター向けレールバスをベースにしている。初期の先行車は鋼製車体だったが、現在はみなステンレス車体にカラー帯。顔は全塗装されているので、ぱっと見は鋼製車体に思えた。昨年の福井旅行で乗った越美北線は鋼製車体であったが、力強いパワーは変わらず山間部も軽快に駆け抜けた。

 この高山本線もまた昨日乗った大糸線同様、猪谷駅を境界に北側のJR西日本と南のJR東海とで運行形態がまるで違う。連絡も悪いうえに直通運転もない。もっともJR東海管内においても、下呂 〜 高山間では4時間ほど運行されない空白の時間帯があるが・・・それを補完する形で特急列車が走っている。というか特急の本数が普通電車を上回っており、まさに観光客や県外からの仕事客だけを視野に入れたダイヤだ。地元市民は列車を使わない事が如実に分かる。
 
 高山本線は「本線」であるにもかかわらず、唯一地方交通線に分類されている、実にかわいそうな路線だ。全長225.8キロのうち岐阜〜猪谷間 189.2キロがJR東海、猪谷 〜 富山間 36.6キロがJR西日本。建設は両側から行われ、南側を高山線、北側を飛越線として進められた。大正9年(1920)にそれぞれ部分開通。順次延伸され、昭和9年(1934)全通した。
 ちなみに、平成16年(2004年)10月に発生した水害により、高山 〜 猪谷間が不通となり、復旧まで3年近くを要したことは、この路線の扱いがよく分かる。

 


 5:52富山駅を出発した高山本線(840D)のキハ120系は北陸自動車道の下をくぐり、軽快なステップで礪波平野を駆け抜けていく。まわりは田畑や近郊住宅地で特に見るものは無いが、朝霧を通して差し込む拡散された朝日の幻想的なベールに包まれているため気分は良い。この逆行がうつろな目に良い刺激となった。さあ、これから向かう険しい山間部へ向けてのウォーミングアップだ。

  いよいよ正面に山塊がせまってくるあたりで、越中八尾駅に到着する。八尾の町は七つの川と八つの尾根の合流点に形成された水陸交通の要衝であり、早くから市場が立つと共に浄土真宗聞名寺の門前町として発展した。河岸段丘上に形成された町でも知られ「越中おらわ盆」の季節は大勢の観光客で賑わう。越中八尾駅は比較的大きな駅で、ここで最初の列車交換が行われた。
 笹津駅のある笹津は古くからの谷口集落で越中と飛騨を結ぶ舟運と陸運の接点として栄えた町。今も昔も山岳部への入口である。しかし笹津には往時を偲ばせる古い町並みは、まるで残されていなかった記憶がある。

  神通川と飛騨街道こと国道41号線に沿って飛騨高山を目指す高山本線。細入村の玄関口である楡原駅を過ぎるといよいよ終点猪谷駅に到着した。時間は6:48である。猪谷は山中に開けたターミナル駅だ。かつてはこの駅から、旧国鉄神岡線を引き継いだ第3セクター・神岡鉄道が伸びていたが、時代の波には逆らえず2006年12月をもって廃止されてしまった。三井金属鉱業が筆頭株主で神岡鉱山の鉱物輸送が7割を占めていたが、その役割も終わり、利用客の減少に歯止めが利かなくなったのだ。

  この猪谷は古くから越中と飛騨の国境であり、関所も置かれていたらしい。富山からずっと併走していた国道はこの猪谷で2つに別れる。国道41号線は神通川の支流である高原川沿いに神岡経由で数河高原を越えて高山へ至り、現在の幹線道路でかつては越中東街道とも呼ばれた。一方ここから分岐する国道360号線は宮川沿いに勾配の緩やかな渓谷を縫って高山へ向かう。越中西街道と呼ばれたこのルートを高山本線は選ぶ。

 この駅での時間の接続は良く10分だ。これを逃すと、JR西日本とJR東海の接続は絶望的になる。その為に早起きをすることになったのだ。せっかくの猪谷駅を撮影するのにはもう少し時間が欲しいところだが、ワガママは言ってられない。さてアイドリングしながら待っているJR東海の(1842D)は国鉄標準型の急行型気動車、キハ40系2両編成。片運転台・片開き扉なので(キハ48)だろうか。アイボリーにオレンジとグリーンの帯を巻いたJR東海カラーである。
 6:58猪谷駅を出発。トンネルを潜りぎゅぎゅっと進路を南西に取る。V字の山々が連なるが、勾配も緩く線形もそれほど悪くはない。2004年の水害による復興で橋梁などが新しくなっている。この宮川沿いには伝統的な民家集落が多く見られる。逆を返せば、国道が幹線道路に発展せず、鉄道も山間のこの地に期待されたほど大きな発展を持ち込まなかったと言える。それにしても景色が良い。

 角川駅のあたりで併走する国道360号線は西へ進路を変え、天生峠を越えて合掌造りの里・白川郷へ通じるのだが、高山本線に寄り添う国道は147号線に名を変え、やがて飛騨盆地に入ると国道41号線と合流する。小さな城下町・飛騨古川を過ぎると周りの山々は徐々に遠くへ離れていく。

  8:02高山駅に到着。ここで接続する普通列車は2時間以上ない。江戸時代の町並みが残る天領飛騨高山は何度も訪れておるので、いまさら散策は考えておらず、なにより今日中に家に着く事が最優先であった為、止むなくベストな接続で待っている特急「ワイドビューひだ」を使用する事にした。

 


 高山発の「ワイドビューひだ4号」(24D)はわずか5分後の出発という事で撮影する暇を与えない。発車まで残り時間も2分も切っていたので、キップは車内の検札時に買うことにして大急ぎで列車に飛び込む。

 平成元年(1989)JR東海初の特急型気動車として誕生したのが、このキハ85系である。客席はハイデッカー仕様で、カミンズ社製の強力なエンジンを搭載し、山間部では電車なみの早さを誇るとか。先頭車両は非貫通型と貫通型の2つの顔をもつ。

 ここから美濃太田までは国道41号線と併走して南下していくが、旧称は益田(ました)街道と呼ぶ。金森長近によって整備された道で、益田郡を通る事からその名が付いたが、狭義では飛騨高山から飛騨金山までの区間を言い、総称して飛騨街道とも呼ばれる。
 高山を出て最初のトンネルが宮トンネルで、これが高山本線でもっとも長い2080mあり、同時に高山本線最高地点714.1mを通過する。分水嶺でもある。これ以降はひたすら飛騨川に沿って蛇行しながら南下する。

 飛騨萩原は南飛騨地域の行政の中心地で、続いて名古屋の奥座敷と称される有名な下呂温泉の下呂駅に着く。河原に源泉が建ち並んでいる。次の停車駅・飛騨金山は、益田街道の宿場町として栄えた町で金森氏の陣屋も置かれていた。幕府領となったあとは天領の年貢米が集められる御蔵が置かれていた。また金山は飛騨・美濃国境の町でもあり、下原口関所が置かれていた。
 金山駅の少し先で別れる主要地方道・関金山線が益田街道(飛騨街道)の本筋で、金山から先の国道41号線は白川街道と名称を変える。

 飛騨川の渓谷が深いV字状に切り込んでくると、数多くの甌穴で知られる景勝地・天然記念物の飛水峡である。かつて飛騨川水運最上流の河港基地として栄えた下麻生に差しかかるあたりにくると、河幅は徐々に広がり、平野部へと入っていく。市街地が広がり、9:49中仙道の宿場町として栄えた美濃太田に到着した。高山本線を全線通して乗るとは言ったものの、終点の岐阜までは行かず、ここで太多線に乗り換えて中央本線経由で家路を目指す。



     
Page1■ 旅の始めは大糸線
page2■ 中央本線・大糸線で本州横断1
Page3■ 北陸本線で富山入り・氷見線に乗る
page4■ 一日の終わりは城端線
page5■ 高山本線で本州横断2
page6■ 篠ノ井線で姨捨駅をめざす
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