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   青春18キップで廻る 
  信州・北陸・飛騨の旅
 
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 美濃太田駅10:06発、太多線(たいた線)の列車番号は(3620C)。1両編成ワンマンのローカル線なのに大都市圏の列車番号が与えられている(語尾のCね)。まあ、それはいいとして、太多線は美濃太田と多治見間17.8キロを結ぶ短い路線。田園地帯を走りながらも通勤通学客で混み合う。極めて素朴で貧相な路線だが赤字ではなさそうだ。もともとは大正7年(1918)に東濃鉄道が一部区間を建設して、その後国有化され高山本線と接続された。濃尾平野の外郭環状線、さらに中央本線から岐阜へのバイパス線的性格もありそうだが、路線の規格はローカル線そのものだ。
 今乗っているのは、キハ11系。JR東海がローカル線のワンマン化を目的として誕生させた気動車で、新潟トランシスの第三セクター向けレールバスがベースであるが、エンジンにカミンズ製のものを搭載する。高山本線などを走るJR西日本のキハ120系のJR東海バージョンで遠い親戚のようなものだ。

 10:34に終点の多治見駅に到着。多治見は美濃焼で知られる陶都だ。ここでの接続がこれまた悪いのだが、次にやってくるのは10:42発の快速「セントラルライナー4号」(1730M)313系6両編成。リクライニングはしないが、快適なライナー車だ。セントラルライナーは18キップで乗ることが出来るが全席指定で別途ライナー券310円が必要。やむを得ずこれに乗り込む事にした。ところが多治見〜中津川間はライナー券がなくても乗る事ができるのだった。快適な車内で前回興奮で見落とした沿線の風景(街道の集落)を再チェックする。

 快適なシートで、あっというまの11:18に中津川駅へ到着。中央「本線」なのに、運行携帯が実に細かく分断されている。ここから塩尻までは準ローカル線の扱いだ。首都圏の中央本線でいうところの高尾か大月のようか分断点であろうか。
 中仙道の宿場町でもある中津川には何度も訪れたが、電車は初めてだ。1時間近く時間があるが、古い町並みをギリギリまで散策していると、次ぎに来る列車に座れなくなる。おそらく、確実に席取りレースが予想される。
  松本までは3時間近くある。ここで昼食を摂らないと後がない。しかし駅弁を買って列車が来るのを1時間我慢するのもつらいし、かといって他に飲食店らしきものもないので、仕方なく立ち食いそばで空きっ腹を満たした。

 食後に駅の売店でビールを買い、ホームでほろ酔い気分にひたる。やがて背後のホームに到着した特急列車から降りてきた乗客で、ホームは人混みで溢れる。ホームの端から端まで綺麗に乗車列が出来ていたが、とんでもない仕打ちが待っていた。
 私は直感で近くの駅員に「今度の松本行き列車の編成」を尋ねると、なんと2両編成だという。おお!そうだった。極秘情報をゲットした私は、静かにかつ大急ぎでホームを移動した。入線する電車を撮影している暇はない。 幸いにも、今度の中央本線が到着するその場所には、ほとんど人が並んでいなかった。そしてそこへ、松本行き(183M)313系2両編成が粛々と入線してきた。気が付いた群衆が押し寄せてくる。
 早くから並んでいた乗客は大ブーイング。暴動がおきそうな雰囲気だった。かろうじて、運良く木曽川側の窓際席に座ることが出来たが、車内は相当な交雑ぶりだ。
 車内はJR東海へ対する不満の声であふれていた。無人駅も多いので増結は困難だったろうが、シーズン中はなにかしらの策が望まれる。12:04列車は中津川駅を出発し、木曽川に沿って北上をはじめた。
  「木曽路は山の中」というが、中央本線は同じ本線でも先の「肩書きだけ」の高山本線とは訳が違う。閑散路線とはいえ、一応は東海道本線と肩をならべる東西の動脈であり、線路の規格も高い上に、なにより車両が快適すぎるのだ。




 14:17松本駅に到着。ここから14:16発長野行きの篠ノ井線(1539M)115系3両編成に乗り換える。篠ノ井線は中央本線の支線として建設されたが、中央本線の全通まえに完成している、長野と首都圏を結ぶ動脈だ。
 高速道路の長野自動車道と同じで、信越本線・長野とのバイパス的路線でもあり、長野と松本の2つの都市部を結ぶ幹線でもある。本数はかなり多い上に、JR東海の中央本線特急も乗り入れている。
 松本駅を出発した篠ノ井線はすぐには山岳部に入らず、犀川沿いに平野部を迂回して、明科駅を過ぎてようやく山間部に入っていく。しかし白坂トンネルを抜けても、また開けて盆地に広がるのどかな田園風景の中を走っていく。西条、坂北、聖高原などはいずれも善光寺街道の宿場町を基にして発展した町だ。今も古い家並みが僅かだが残されている。

 そしていよいよ冠着(かむりき)トンネルの勾配を登ると、一気に善光寺平を一望できる篠ノ井線のハイライトへ放り出される。が、その前に一旦手前のスイッチバックの信号場で、焦らすように上下線の通過列車の交換が行われた。これはこれで初体験であり、なかなか興奮した。そしていよいよ本命は姥捨駅。スイッチバック駅だ。前進と後進を繰り返すのは、何度乗っても面白い。
 姨捨付近の高所から見晴らす善光寺平の景観は日本三大車窓の一つに選ばれている。三大車窓は他に肥薩線矢岳駅付近(矢岳越え)と根室本線 狩勝峠があるが、狩勝峠の方は新線の付け替えによって無くなってしまったらしい。篠ノ井線に乗り入れる特急列車もこの駅や、先ほどの手前の信号場も停車せずに通過していくので風景だけの感動も一瞬で終わってしまう。
 列車はすぐに姨捨駅を出発。一旦本線までバックし、再び前進していっきに峠を下っていく。やがて平野部に入ると善光寺街道の宿場町にして物資の集散地として栄えた稲荷山駅に到着。稲荷山には今なお土蔵造りの家並みが残されている。

 

 篠ノ井線の終点は長野駅だが、本来の起点である篠ノ井駅で降りることにした。15:32に到着。
さて、ここからは長野新幹線の開通によって経営分離された旧信越本線の第3セクター「しなの鉄道」に乗ることにした。もちろん別料金である。料金表をながめる。た、高い。終点の軽井沢まで乗ると結構な乗車料金だ。長野から新幹線に乗っても大して変わらない。よって、途中の上田で新幹線に乗り換える事にした。

 列車を待つまでの暫くのあいだ、篠ノ井駅の改札外の立ち食いそば屋が良い匂いが食欲を刺激。信州そばを期待したが、なんと普通のゆでめんで、ガックリ。やっとまともな蕎麦にありつけると思ったのだが。

 しなの鉄道軽井沢行き15:51発(660M)は169系3両編成だ。基本、車体の色が変わった以外は信越本線そのままである。駅間は長く豪快に走り抜ける。169系は勾配のきつい碓氷峠を越えるために、165系近郊車両をベースに、電気機関車EF63と協調運転するために製作された車両で、見た目はほとんど165系と変わらない。
右手の車窓は信濃川、左手には養蚕集落が見える。北国街道沿いの養蚕集落といえば、上塩尻が有名であるが、おそらくそれとは違う新規の集落を発見できた。

 16:21上田駅到着。乗換は9分しかない。普通の乗換なら十分な余裕だが、新幹線ホームは隣接しておらず、改札口もどこにあるのか探してしまった。篠ノ井駅で乗車券を購入済だったので、ダッシュで改札をくぐる。
 16:30やってきた新幹線あさま583号(583E)E2系は相当な混雑だったが、なんとか窓際をゲット。小諸や軽井沢ではホームに人があふれており、立ち客続出。上田で乗り換えて正解だった。
  やはり新幹線は体感速度が別次元だ。暴力的とも言える加速感が気分転換というか、ローカル線に揺られ続けた体をリセットするには良い。もちろん、終点の東京まで乗るわけではない。2駅先の高崎で乗換えである。
 高崎線は乗換が必要なので、乗換無しの「湘南新宿ライン」をねらう。贅沢にグリーン車をおごるつもりだ。

上田駅を出発して、わずか40分で高崎駅へ到着。途中、トンネルばかりで少し焦った。というのも、湘南新宿ラインのグリーン席券を携帯電話の「モバイルSUICA」で購入するのだが、電波が遮られてなかなか手続きが先に進まない。高崎駅での乗換は上田駅の時よりも短い「2分」しかない。JR同士だから連絡はスムーズだが駅の配置を熟知しているわけではない。ホームで走りながら、グリーン席の手続き完了。 ホリデー料金で750円だった。

 今度は焦りながら2階建て車両をさがす。今年最初の旅での失敗は避けなければならない。10両編成の6・7両目だ。発車ベルと同時に列車に滑り込む。狭い螺旋階段を駆け上る。車内はかなりの着座率。2階席の窓際席はアウト。それでなんとか通路側の席に着くことができ、グリーン券の払い戻しは避けられた。
  頭上のセンサーに携帯電話をタッチしてランプが緑色に変わる。これで検札はいらないのだ。席を変える場合は一度タッチして解除し、移動先の席で再びかざすのである。すごい時代になったものだ。
 グリーン車には車内販売がある。ビールを買って旅の最後を締めくくった。

 これにて2008年夏、人生初の「青春18キップ」の旅は幕を閉じたのでした。めでたし、めでたし。

 
 
Page1■ 旅の始めは大糸線
page2■ 中央本線・大糸線で本州横断1
Page3■ 北陸本線で富山入り・氷見線に乗る
page4■ 一日の終わりは城端線
page5■ 高山本線で本州横断2
page6■ 篠ノ井線で姨捨駅をめざす
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