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   四国フリーキップで廻る 
  四国ぐるり鉄道の旅
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そしていよいよ本格的なローカル線である予土線に乗る。この予土線は旧国名の伊予と土佐から名付けられたように、四国の西端を縦断する路線で「しまんとグリーンライン」の愛称があり、四国の中で唯一の秘境ローカル線といっても過言ではない。予土線の純粋な区間は北宇和島ー若井感76.3kmだが、実際には宇和島ー窪川を結んでいる。運行系統は愛媛県側と高知県側のそれぞれの生活圏で区切られ、全通する列車に日に数本しかない。

この四国西端の山間部、約80kmを3時間ちかくかけて20の駅で結ぶ路線を走ってくれるのが、宇和島駅3番線ホームに待つ(4820D)富士重工製のキハ54系1両ワンマン車だった。そしてなんとオールロングシート。
しかも車内にはトイレは無いときた。その理由がのちほど分かる。まあ、ローカル線らしいと言えばそうなのだが今日はこれに往復6時間近く乗ることになるのだ。

このキハ54系も国鉄民営化後に経営が苦しいと予想されるJR北海道、JR四国向けに国鉄が親心で残した遺産であり、レールバスの類だがステンレス製の車体で全長も20m級と大型だ。山岳路線のために2エンジン搭載のハイパワーな列車であるが、そのスペックの割には、あまりに地味すぎる印象で独特の郷愁感を持っている。哀愁感といった方が正しいか。これもJR四国のコーポレートカラーである「水色」が原因の一つであると思う。

予土線の前身は宇和島近郊の私鉄の宇和島鉄道で、当時は軌間762mmの軽便鉄道だったものを国有化して宇和島線とし、高知方面へ向けて延伸が進められ、全通して予土線となった。また同じく国有化されて予讃線となる宇和島 ー卯之町間が開業したことで、この路線の起点が宇和島から北宇和島へと変わったらしい。

11:33発(4820D)は宇和島駅を出発し北宇和島駅をすぎると、予讃線と別れて右にカーブしていく。ここから急勾配と連続カーブが続くので時速25キロで、ゆっくりとゆっくりと登っていく。雪があるわけでもないのに、JR西日本の芸備線並みのとろさだ。軽便鉄道の線路幅を広げただけの為か、相当なカーブの角度と思われる、車体のあちこちから聞こえる悲鳴がそれを語っている。あまりに次の駅まで距離があるので、いったいどこまで登っていくのか、と思ったら、視界が一気に開け、盆地の中に放りだされて務田(むでん)駅に到着した。ここからは平野部だが、それでも30キロから40キロとのろのろ運転だ。

列車交換が可能な2線の相対式ホームを持つ伊予宮野下駅は三間町の玄関口。ここを過ぎると列車は時速60キロほど出していく。たかが60キロだが随分加速しているように感じる。二名駅・大内駅を過ぎると再び山間部へと入っていく。しかしそれほど急峻では無い。地元の学生の乗り降りが増えてきた。
深田駅の次の近永(ちなが)駅は1面2線の島型ホームを持つ駅だが、宇和島通勤通学の駅として有数の乗降客数を持ち、この駅始発・終着で運行される列車も多い。今回も向いのホームには2両編成の列車が留置されていた。
正面に見える八面山?の山頂付近には雪化粧。厚い雲が連山の上を覆っている。

出目(いずめ)駅の次ぎの松丸駅は小さな駅だが立派な駅舎がある。駅の北側には「道の駅」もあるこの町は、土佐街道の宿場町として栄え、今も酒蔵や味噌蔵などの醸造蔵が立ち並び古い町並みを形成している。

 
 

次の吉野生(よしのぶ)駅は列車交換が可能な2線の相対式ホームを持っていたが、その次ぎの真土(まつち)駅は列車一両分だけの小さな停留場。このあたりから本格的に四万十川の支流・吉野川の蛇行に沿って「川線」らしい車窓が始まっていく。そして次の西ヶ方駅との中間で県境を越えて高知県へと入る。

江川崎駅は2面4線のホームのほかに留置線もある大きな駅。駅舎もあるが無人で、周囲には民家が数軒あるだけである。この駅は西土佐町(現在は中村市と合併して四万十市)の玄関口であるが、町は駅から離れていて生活の足にはなりそうに無い。この駅はかつて貨物輸送も行われていたが、予土線が全通する以前の宇和島線の終着駅だったのだ。この江川崎駅の先でここまでいっしょだった吉野川がこの先で四万十川に合流する。

予土線は江川崎駅を出ると大きくカーブして吉野川を渡る。この先からは「本命」四万十川と併走する。が、四万十川は水量が少なく、清流のイメージは遠かった。四万十川と言えば名物の「潜水橋」があり、それも車窓から見る事ができた。「潜水橋」とは別に稼働して水中に沈むわけではなく、もともと水面に近い川床部に架けられた橋で、欄干もなにも無い。なぜかと言うと増水の際に破壊流出するのを裂けるために、水底に沈み流木などが引っかかるような突起物も一切配した、「流されない橋を架ける」意味で「頑丈な橋」に対する逆転の発想から生まれた橋である。もっとも最近は水面からはるかに高い場所に架けられた鋼鉄製やコンクリートのアーチ橋や吊り橋が増えつつあるが、生活に密着した橋としては現役であるし、なにより貴重な観光資源である。最近は建築基準法などで、いろいろやっかいな問題も多いと聞くが。ちなみに、人だけでなく車も渡ります。

さて高知県に入ると次第に列車の速度が上がっていくことに気が付きます。平均速度は時速60キロ、そして土佐昭和から土佐大正区間では時速80キロで走る区間も。つまり開通が遅い区間、特に戦後に建設された区間ほど橋梁やトンネルが多く線形・規格が良いのである。これは山陰の超ローカル線・三江線にも通じるところだ。

半家(はげ)駅、十川駅、土佐昭和駅はいずれも簡素な停留場のような駅で集落を見下ろす高台にある。

そして土佐大正駅で20分ほど停車。別に対向列車待ちでは無い、運転手の休憩と乗客のトイレタイムである。土佐大正駅は高台にあり、地下通路で駅本屋と結ばれている。駅舎は山小屋風で、併設されているトイレも近代的で新しい。最近建て替えられたのだろう。

打井川駅、家地川駅はいずれも川沿いにへばりつくように造られた駅、というより停留場。あと2駅で終点だ。

土佐くろしお鉄道中村・宿毛方面との分岐である、川奥信号場で一時停止。信号を確認してから発車。土佐くろしお鉄道はここからトンネルループで谷を下っていく。はるか眼下にその先の線路が見えて高低差を実感できる。
ここから若井駅までの区間は土佐くろしお鉄道の籍でありJR予土線の運賃は別扱いとなる。若井駅はまた予土線及び土佐くろしお鉄道の終点駅だが、列車は両者とも次ぎの窪川駅まで乗り入れている。

 
 

窪川駅は実質的には予土線と土佐くろしお鉄道の終着駅であると共に、四国を縦断する土讃線の終着駅でもあり、3面4線の大きな駅だった。といっても町自体小さく、非常にのんびりとしている。13:50ごろ到着。

窪川は現在も国道51号線と381号線が分岐する要衝で、かつては在郷町として発展した町だった。町の起こりは関ヶ原の戦い後に、土佐一国を与えられた山内家の家老林家の城下町として始まったのだが、同家は後に無嗣改易となり、主を失った町は土佐藩の支援で生き延びる事となった。その為城下町としての遺構は地名以外にはまったく残されてはいない。在郷町として栄えた後も大きな商家は生まれなかったようで、伝統的な町並みは皆無に近い状況だったが、唯一本町で地酒「桃太郎」を醸す文本酒造とその通りに伝統的な建造物を見ることができた。

ぐるりと窪川の町を歩いて駅に戻る。
15:02発予土線・宇和島行きは、さきほど乗ってきた列車がそのまま折り返す。そして運転手も同じだった。列車番号は(4825D)に変わった、来た時とは対象に結構な乗車率である。中村観光や高知方面から来た乗客であろうか?終点の宇和島には17:51に到着予定だ。

帰りの「休憩駅」は土佐昭和では無く、江川崎だった。列車交換も兼ねた30分ほどある。駅の手前でおそらく今回初めて?のATSの警告音を耳にした。駅に着くと運転手も列車を離れどこかへ行ってしまう。
あらためて降りると山に挟まれた川辺の静かな駅だ。福島県の会津若松と新潟県の小出を結ぶローカル線JR只見線の記憶がよみがえって来た。あちらにも似たような景色の駅が多い。
天気がいいので山々のひだがどこまでも続く。東京から遠く離れた「島」の奥、山のまた山の中に今いる。

対向列車が来るまでに太陽は山の向こうに消えていった。空は明るいが、山間の低い部分はかなり暗い。しかし列車が愛媛県に入ってもまだ陽の光は頑張ってくれていた。
近水駅で5分の休憩。向かいのホームには宇和島行き始発の列車が止まっていた。再びATSの音。伊予宮之下駅で列車交換の為に2分の停車。夕方は行き違いが多い。予土線はおおむね、この宇和島近郊区間の輸送が主であり、高知県まで足を伸ばすのはほとんど副業に近いところがある。

務田駅を過ぎると時速25キロ区間、あたりは真っ暗だがドア付近をはじめ、車体のあちらこちらから鳴り響くキシミ音で終点宇和島が近い事を知る。
山を下って予讃線に合流、終点の1つの北宇和島で4分の停車。予讃線の宇和島行き特急列車を待つ為である。そしてその追い越していった特急列車にこの後宇和島から乗って松山へ戻るのである。

宇和島での乗り継ぎ時間は4分。18:10発の特急「宇和海2号」(1072D)は19:27に松山に到着予定だ。
その後はホテルにチェックインした後、路面電車の松山市内線に乗り道後温泉へ目指すのだ。道後温泉は市内線の駅から大正レトロが漂い、文化財の道後温泉本館で1日の汗を流した後、その真横に建つ松山の地酒蔵・水口酒造直営の道後麦酒館で至福の一時を過ごして四国初日が終わるのだ。


 
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Page3■ 四国の超ローカル線・予土線
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